この夏はまったくもって悪夢のような酷暑の夏で。
回復力の高い子供たちでも、
油断をすると熱中症に襲われる恐れがあったため、
催しやらフェスやらといった屋外イベントでは、
殊の外、暑さ対策が講じられた夏でもあって。
「やたら水を掛け合うイベントが流行ってるのもそのせいなんかな。」
「あー、そうかもなぁ。」
打ち水なんてもんじゃあない、
バケツ持ってきて掛け合うような
激しいバトルもどきのアトラクションも少なくはなく。
だがだが、それだとて
会場になっていたランドだのパークだのから帰るころには
大汗かいたのと変わらない、
むしろ汗を流した後の爽快感だけ残したしっとり具合に乾いているというから、
「…うちの練習にも組み入れられねぇかな、そういうの。」
二回生部員がそんな願望をちらりとこぼしたのへ、
「甘えてんじゃねぇよ。」
毎日が炎天下というこの暑さですから
涼めるものならとついつい思うお気持ちは判りますが、
そんな生易しいことを言っていては秋に始まる星取戦で生き残れませんことよ…と。
丁寧に言えばそういう意味合いを込めて、
ざっくりした言い回しにて端的に一言で言い切るのが。
黒髪をオールバックになでつけ、三白眼をぎろりと剥く鋭角的な面差しもワイルドな
総長、もとえ主将様ならともかく、
「…お前、それって恒例のアレのか?」
「おうよ。桜庭の来年度カレンダーの追い込みだ。」
さらさらしたサッカー生地らしき素材の
今年流行のフリフリしたフリルが胸元を覆うタンクトップに、
細かいシャーリングで細っこいウエストがすっきりと絞られた濃紺系の短パン。
ふわふかな金髪をカチューシャ代わりの大きめのサングラスでキュッと押さえた、
アメリカンと言えば言えるか、
むしろマリンスタイルじゃあなかろうかというよないでたちをした
毎度お馴染み、フリル・ド・リザードの小さな鬼軍曹様。
軽やかなくせっ毛のけぶる金髪といい、
金茶の双眸、白い肌、
ちょっとばかりつんとした、だが整った面立ちに、
小鹿のようにほっそりした四肢…といった、
子供ながらもモデルのような端正さを持ち合わせ。
何も言わずににこぉっと笑っておれば、
お友達の瀬那くんに匹敵しよう
“天使のような…”という形容詞で通用する愛くるしい風貌だというに。
「うだうだ言ってねぇで、とっととトラック走ってこいやっ!」
「ひぇえっ!」
口が悪いのみならず、
どこへ隠し持っているやら
小さな総身と大差ないほど大型のマシンガンをじゃきりと構えて
BB弾を容赦なく撃ってくる凶悪さも健在なものだから。
「夏バテとか している暇もありゃしねぇよな。」
「まったくだ。」
フィールド周縁にコースを引かれたトラックを規定周だけ走ることで、
まずはのウォーミングアップとしている、賊大アメフト部の夏トレ。
とはいえ、そこはやはり暑さ対策がさりげなく施されてもあって、
コースのところどころに、スプリンクラーを改造したミスト発生装置が配置されてるし、
「アトランダムに急冷温度のが出るのはわざとか、あれ。」
「何の話かなぁ?」
ボク判らないなぁと言いたげに、愛らしい双眸をくりくりっと見張るのがまた白々しいが、
そういうところを胡散臭いぞと突っ込まず、
「…いいからそのカッコ、とっとと着替えろ。」
何に照れたか、そんな風に言い濁す、葉柱さんだったりするものだから、
今度はメグさんを筆頭に、女子マネたちがこっそり苦笑をこぼしていたりする。
酷暑も炎暑も何のその、
賊大フリル・ド・リザードは、
今年もなかなかの軒昂ぶりなようでございますvv
〜Fine〜 15.08.17.
*こっちの坊やたちの様子も久々に。
夏の合宿に、
忘れちゃいけない桜庭くんのカレンダー撮影への助っ人にと、
子ヒル魔くんは相変わらずお忙しいようです。
マジでばててる場合じゃありませんな。
「つか、俺に頼りすぎだ大人たち。」
…ごもっとも。(笑)
めーるふぉーむvv
or *

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